京都文学散歩【澤田瞳子・京都鷹ヶ峰御薬園目録 ふたり女房】
今回は、澤田瞳子さん著『京都鷹ヶ峯御薬園目録 ふたり女房』を読みました!

舞台は江戸時代の鷹峯。ここには当時、徳川幕府が設置した薬草園があり、主人公の元岡真葛(もとおかまくず)は、この薬草園で働いている若い女性です。
本書は全部で6編の短篇から成ります。各編では京都の町での様々な人間模様にまつわる事件が描かれ、薬草の知識はもちろん、医学にも深く通じる真葛が、その知識を活かしながら事件の解決を図る、ミステリー調の時代小説です。
全体として京都らしい落ち着いた雰囲気を感じる文章で書かれていますが、一方で、ミステリーの緊迫感や疾走感もあり、全く飽きることなく、あっという間に読み終えてしまうとても面白い作品でした!
何より、江戸時代の鷹峯にそのような薬草園があったということを本書を読んで初めて知りました。その意味でも、出会えてよかった作品の一つです。
本作品では、商人や武士、貴族に至るまで色々な階級の人物が登場します。人と人とが交われば、楽しいことばかりではなく、問題も起きてしまうのが世の常、ということで、私たち読者は、真葛の目線を通して様々な人間関係の影の部分を垣間見ることになります。
そこに描かれる問題は、単なる人間関係のトラブルにとどまらず、政治の中心を江戸に移された当時の京都ならではの事情が絡むものがあったり、男性社会の中に生きる女性ならではのものがあったりと、色々考えさせられることも多い作品です。
また、本作品はストーリー毎に季節が異なります。薬草園が舞台ということもあり、各話では、植物の様子をはじめとする季節の様子が鮮明に描かれており、読みながら全身で四季を感じているような気分を味わうことができます。
すっかり梅雨も明け、連日の猛暑に参ってしまっている今日この頃ですが、特に冬を描いた話を読んでいるときには、このうだるような暑さを少し忘れ、40℃近い気温に乱された心にひと時の落ち着きを取り戻すことができました。
さて、このブログのもう一つの本題、小説の作品巡りの方にも行ってきました!
まずは、ここ、鷹峯です!

千本通と北山通・今宮通が交わる交差点から北にのびる道が、真葛が薬園と京の町中を行き来するときに通っていた鷹峯街道です。

ここからしばらく北に歩くと、本書の舞台となった鷹ヶ峯薬園の跡地であることを示す石碑が立っています。どうやらこの場所は、幕府から代々、薬園の管理を任され、作品内にももちろん登場する藤林家の邸宅の表門があった場所のようです。

また、本作品には特に登場しませんが、この石碑の近くには豊臣秀吉が築いた御土居が残されており、当時の京都の様子に思いをはせることができます。

そして、もう一か所、この作品を語る上で欠かせないのが二条通です。当時、二条通の特に、新町・烏丸間には多くの薬屋が集まっていたようで、本書でも二条の薬屋が度々登場します。
今回訪れたのは、こちらの「薬祖神祠」です。烏丸二条の交差点を少し入ったところにあります。

本書の「初雪の坂」内には、この話が天明の大火(1788年)から14年後の話であるとの描写があります。薬祖神祠は創建が安政5年(1858年)ということで、どうやら本書に書かれている時代にこの神社はまだなかったと思われますが、薬屋街として栄えた当時の名残ともいえる建物です。
薬祖神祠には、日本や中国の神様に加え、古代ギリシアの医者であり、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスも祀られているようです。写真真ん中やや右の部分に写っている胸像は、おそらくそのヒポクラテスではないでしょうか!
薬園に勤める女性という珍しい視点から江戸時代の京都を描いた『京都鷹ヶ峯御薬園目録 ふたり女房』この夏の京都のお供にいかがでしょうか。

るいくん